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「現状の一雇用調整に加え、構造改革による影響が短期的に一雇用面に及ぶであろうことを踏まえ、柔軟な労働市場の形成が必要である」として、「我々経営者は、従業員が多様な個性と能力を最大限に発揮できるよう、新しい時代に対応した人事・賃金制度の抜本的見直しをすべきである」と述べている。
委員長のS社長は、「同友会メンバーで生じる失業問題はそれぞれが責任を持って対応すべきだが、経営規模の小さな分野で起きる失業には政府が一時的に対策を講じてもらいたい」と語っている。
しかし大企業も社内失業をこのまま抱えていくつもりはないだろう。
労働市場を介した一雇用調整は不可避になりつつある。
もう丸抱えはできない単に赤字に転落したから人員削減をするという短絡的な動きではない。
企業内労働市場しか考えてこなかった従来の経営から、外部の労働市場とリンクした経営への転換が始まろうとしているのだ。
赤字でもないのに、音響機器メーカーのPが50歳以上の管理職35人に退職勧奨をしたケースは大反響を呼んだ。
35人くらい辞めさせたところで、人件費はたいして節約できないではないかという批判が多かった。
Pの幹部が成績不良者を対象にしているようなニュアンスの発言をしたため、冷たい会社という感情的な非難が巻き起こった。
対象者からは、やり場のない怒りを買った。
当然である。
確かに会社側のやり方は無神経で拙劣だった。
しかし会社の真意は今一つよくわからないものの、すべての社員を丸抱えにしていく時代は終わったということを象徴的に示した点で、深刻な問題を提起したように思う。
あるPの管理職が「なぜこの時期に、退職勧奨をしなければならなかったのかは謎ですが、トップの動物的なカンで決めたのではないでしょうか」という感想を漏らしている。
ある同業の人事労務担当の部長に、Pのケースを踏まえて、本音を語ってもらった。
「サラリーマンは20歳代、30歳代までは確かに会社にとって有用であっても、40歳代、50歳代になると守りに入り、仕事で勝負するよりも30歳代までの貯金で食って行こうと考えがちです。
しかしそれでは本人も不幸だし、会社も持たなくなってきたのではないですか」と指摘する。
年功的な秩序の下では、年長者は次第に一線から遠ざかり、昔の功労を拠り所に年金生活者のような立場に自然になっていく。
ピラミッド型の組織では上に行けば行くほど、第一線で指揮をとる者は少数でいい。
残りの多数は窓際族的な存在にならざるを得ない。
これまでは、企業に財務的なゆとりがあったから、そうした人たちを抱えて行けた。
Pはオーナー型経営の企業で、もともと温情的な社風だった。
加えてバブルの時期に、本当はそうした微妙な問題に手をつけるべきだったのに、人手不足など他の問題に気を取られて、解決を先延ばししてきた嫌いがある。
中高年の従業員を有用な人材として活用できなかった企業の人事政策に、もちろん第一義的な責任がある。
企業の人事部はだいたい保守的で、悪く言えば摩擦を恐れるあまり、ことなかれ主義になっている面が少なからずみられる。
今回の不況は、これ以上だましだまし行くことを許さない。
企業はまさに抜本的な見直しを迫られているわけだ。
前述の同業の部長氏は「これからは20歳代、30歳代から、従業員に自分たちが目指す社員像を自分なりに考えてもらって、それに向けて会社も人事のローテーションなどで支援するが、本人にも自覚して努力してもらうことが必要です」と語る。
「さらに40歳代から上に行ったら、従業員の進路指導のために会社側が真剣に本人と話し合わなければならない。
定期的に話し合うことで、従業員に現実と向き合ってもらうのです」と言う。
そこである人は、幹部を目指してさらに努力する決意を固める。
またある人は関連会社への転出を選ぶ。
また全く関係のない会社への転職を選択する人も出るだろうと言う。
「それは本人にとってベストではないにしても、ベターの選択として納得したうえで選んでもらう。
非常に難しいことその部長氏は結論的にこんな話をした。
「雇用関係は本質的には契約なのだという点をもっとはっきりさせるべきではないでしょうか。
日本では、終身雇用というと、一生面倒を見るような、あるいは面倒を見てもらうように錯覚しがちですが、突き詰めれば契約関係なんです。
温かい面を残しても、最後はそれだということを働く人に知らせるべきです」。
「そう考えると、人生設計を含めて会社が進路指導をするのは、本当はお節介なことで、結局は甘えを生み、本人をスポイルする恐れがありますね」と笑った。
もはや、あいまいに臭いものに蓋では済まないだろう。
92年秋、Tがスタッフ的な仕事をしている50歳代の担当部長50人を、60歳の定年まで自宅待機にさせようとして、大反響を招いたことは記憶に新しい。
結局、社内外の反発に合い、沙汰やみになったが、対象者はいたたまれない気持ちではないか。
人材の不完全雇用状態TやPの例は、いわばパンドラの箱の蓋を開けたようなものである。
企業内労働市場でやり繰りして、失業者を外部に出さないのが日本的経営の一つの長所とされてきた。
終身雇用を掲げる以上、当然だった。
日本の企業は従業員の研修に熱心で、従業員の多能工化、さらには多職工化を進めて、事業内容の変化に合わせて配置転換をしてきた。
教育投資は、従業員の定着率が高いから無駄にはならない。
一見、成功を収め何の破綻もなさそうにみえたが、企業は遊休化した人材をいつの間にか、沢山ため込んでいたのである。
もっと厳密に言えば、人材を不完全雇用状態にして抱え込んできたわけである。
どこの企業もあまり表沙汰にしないが、中高年者の活かし方に頭を痛めており、実際には持て余している。
人材を十分使いこなせない個々の経営者は責任を免れないが、マクロ的に見れこれも人件費の節減よりも、人事についての姿勢が変わったことの一つの表れである。
実行を思いとどまったからといって、本質的には何も解決していない。
50人の担当部長が会社の中で、トップから仕事上期待されてないことが明らかになってしまったからだ。
もともと、そのような見方をしていたことがたまたま表面化したわけである。
そのままそっとしておいても、問題は時限爆弾のように眠り続け、いつかは爆発しただろう。
このため白紙の状態で採用し、自社の社風に染め上げて、ベクトルを一つに合わせた方が好都合だった。
均質の商品を効率よく生産するには、均質の人材を揃える必要があったのだ。
転職がなかなか盛んにならず、一般労働市場が育たなかったのは、人材が企業ごとに独特の仕事の仕方や行動原理を覚え込み、いわゆる互換性を欠いていたからだ。
違う企業に転職しても、企業一家意識の強いところでは溶け込むのに苦労する。
ば、企業内労働市場の限界が露呈したと言える。
かつては新卒者をまとめて採用し、企業内労働市場にプールすることが、企業の成長を促進するのに合理的だった。
特に高度成長期にはうまく機能した。
工場を増設し早期に立ち上げるには、熟練した労働力を蓄えておかなければならなかった。
また日本が欧米先進国に追いつき追い越せという時代には、何を作るかというより、すでに欧米にある商品をいかに安く大量に作るかが問題だった。
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